第3回|徳山学監督インタビュー
Baseball5は「競技」ではなく「教育」
――野球の原点を、社会と未来へつなぐために
Baseball5は、野球を進化させた新競技ではない。
徳山学監督がそこに見たのは、「誰も取り残さない」ための教育の形だった。
第3回では、Baseball5を通して見えてきた、野球と社会、そして未来をつなぐ可能性に迫る。
Baseball5との出会いが示した「野球の可能性」

「これなら、誰でも入れる」──直感的に感じた“入口の広さ”
――徳山監督がBaseball5に注目されたきっかけを教えてください。
徳山:
最初にBaseball5を見たとき、理屈よりも先に出てきた言葉が
「これなら、誰でも入れるな」
でした。
野球という競技は、長い歴史がある分、どうしても“型”が多い。
バットやグラブが必要で、広い場所が必要で、チームを組まないとできない。
そして何より、経験者が圧倒的に有利になる。
私は指導者として、
「野球が好きなのに、始める前に諦めてしまう子ども」
を何人も見てきました。
Baseball5は、その最初の壁を、ほとんど感じさせない。
ボール一つあればできる。
ピッチャーがいないから、誰かを待つ必要もない。
野球の楽しさを削った競技ではなく、
野球の一番原始的で、一番楽しい部分だけを残した競技だと思いました。
「始められない子」を生まない構造
徳山:
校長として学校全体を見ていると、
「能力の差」よりも先に、「入り口の差」があることに気づかされます。
運動が得意な子は、自然と前に出る。
そうでない子は、最初から距離を取ってしまう。
Baseball5は、その“最初の距離”をつくらない。
やるか、やらないかではなく、
気づいたら中に入っている競技なんです。
この構造自体が、教育的だと感じました。
男女混合というルールが持つ、本当の意味

男子2名・女子2名+ジェンダーレスは「思想」である
――Baseball5は男女混合が前提になっています。
徳山:
男子2名、女子2名、残り1名はジェンダーレス。
このルールは、単なる人数合わせではありません。
体の大きさや力の強さだけでは、勝てないように設計されている。
どう考えるか、どう声を掛け合うか、どう役割を分担するか。
これは、まさに今の社会そのものだと思います。
「強い人が中心」にならないスポーツ
徳山:
従来の野球では、どうしても
「体が大きい」
「力が強い」
選手が中心になりやすい。
でもBaseball5では、
一人が突出しても、試合は成り立たない。
5人全員が関わらないと勝てない。
誰か一人が目立つのではなく、
全員が機能して初めて成立するスポーツです。
校長として見てきた「取り残される子」

徳山:
校長時代、私が一番気にしていたのは、
「声を上げない子」でした。
できないわけではない。
でも、前に出ない。
失敗するのが怖い。
体育や部活動の場面では、
そういう子が一番、取り残されやすい。
Baseball5は、
その子たちが自然にプレーの中に入っていける構造を持っている。
これは競技論というより、教育論だと思っています。
学校教育との親和性
体育の授業に、そのまま入れられる理由
――学校教育との相性についてはどうでしょうか。
徳山:
非常に高いです。
体育はすでに男女共習が前提になっています。
野球やソフトボールは、
打球の強さや安全面で、どうしても制約が出る。
その点、Baseball5は危険性が低く、ルールも単純。
短時間で理解できて、
「考える」「話し合う」「協力する」
という要素が自然に入る。
これは、今の教育現場が求めている力と、完全に重なっています。
野球経験の有無が、意味を持たなくなる

徳山:
Baseball5では、
「野球をやってきたかどうか」が、ほとんど関係ありません。
経験者も、未経験者も、同じところから始められる。
これは、教育の現場ではとても大きい。
「できないから外で見ている」
という状況を、つくらなくて済む。
大学スポーツが担うべき新しい役割
勝敗だけではない「社会との接続」
――大学という立場から見たBaseball5の意義は?
徳山:
大学は、勝つためだけの組織ではありません。
競技を社会にどう接続するかを考える場所でもある。
Baseball5を通して、
大学生が地域や学校で指導に関わる。
教える側に回ることで、自分の理解が深まる。
これは、
「野球がうまい学生」を育てるだけでなく、
「人と関われる人材」を育てることにつながります。
Baseball5が育てる非認知能力
徳山:
Baseball5は、正解が一つではありません。
状況を見て、判断して、声を掛け合う。
実際、
普段は静かな学生が、
自然と指示を出すようになる場面を何度も見てきました。
判断力、協調性、立て直す力。
社会で必要とされる力が、無理なく育っていく。
第3回まとめ
Baseball5は、野球を置き換える競技ではない。
野球へとつながる、新しい入口であり、
教育と社会をつなぐためのツールだ。
徳山学監督は、
この競技の中に「誰も取り残さない野球の未来」を見ている。
編集後記
Baseball5の話で語られていたのは、競技論ではなく教育論だった。
校長として、監督として、現場を見続けてきた徳山監督だからこそ、
この競技の価値を「社会にどう接続するか」という視点で語れる。
野球の未来を語る言葉は、静かだが確かな重みを持っていた。
