WBCでの快進撃や国際交流事業を通じて注目を集める“チェコ野球”。その舞台裏で、日本とチェコをつなぎ、選手たちの活動を支える存在がいます。
日本チェコ協会副会長であり、全国通訳案内士としても活躍する合田哲郎さんです。
今回は、合田さんの歩み、野球への哲学、そしてBBPARKが掲げる「セカンドオピニオン」への思いを伺いました。
国際大会の現場で培った経験から見えてくるのは、日本野球の魅力と課題。伝統と国際基準のはざまで揺れる現在地、そして未来へのヒントです。
さらに、マイナーとされる欧州野球に深く関わってきたからこそ語れる、独自の視点もお届けします。
Q1. まずは自己紹介をお願いします。
合田:大阪で生まれ、4歳の時に父の仕事で渡米しました。ニューヨークで5年間暮らし、その間、日本人リトルリーグに1年ほど所属しましたが、実は野球経験はその時だけです。
その後は観戦が中心でしたが、2023年のWBCチェコ代表の宮崎合宿や、千葉ロッテマリーンズとチェコ野球の交流事業「マリーンズ-チェコベースボールブリッジプログラム」で通訳を務めるようになり、現場にも関わるようになりました。
今では、チェコの若い選手たちの相談や生活支援を行っています。これは、22歳でプラハに移住し、旅行業に長年従事してきた経験が生きているのだと思います。野球界では「チェコ語の通訳」と思われがちですが、本業は観光ガイドであり全国通訳案内士です。

Q2. 野球やスポーツを通して、大切にしている信念は?
合田:「戦いとは準備している者が勝つ」ということです。孫子の兵法にある「彼を知り、己を知れば百戦危うからず」という言葉を常に意識しています。
Q3. 活動に影響を与えた人物はいますか?
合田:チェコ代表のパヴェル・ハディム監督です。
彼の「野球で成功したいのなら、社会人としても立派でなければならない」という言葉は、私の考え方にも大きな影響を与えました。
Q4. アマチュア野球の現状について、課題をどう見ていますか?
合田:日本のアマチュア野球には複数の統括団体が存在しており、その整理が今後の課題だと感じます。海外からの視点では、こうした分散が国際大会への参加や情報共有を難しくしているように見えます。
また、高校野球については、9イニング制という伝統を守り続けている一方で、国際基準では7イニング制が一般的です。この違いをどう捉え、将来的にどのように調和させるか――議論の余地があると思います。
Q5. 特に改善が必要だと思う仕組みは?
合田:まずは団体同士の連携強化です。組織の垣根を越えて協力できる体制があれば、国内の育成環境が整い、国際的な交流や大会参加もスムーズになるはずです。海外からの視点でも、日本野球の強さと魅力をさらに広げていくためには、この連携が欠かせないと感じています。
Q6. 海外と比べて印象的な違いはありますか?
合田:チェコではナショナルチームの監督が公募制です。候補者は自らコーチ陣を揃えて立候補し、選ばれた監督は任期中チームを率います。透明性が高く、誰にでもチャンスがある仕組みです。残念ながら日本にはまだ導入されていません。
Q7. ご専門の立場から、育成や成長に役立つ知見は?
合田:「前例がないから」と却下されることは多いですが、すべてのことに“最初の一歩”はあります。私は「やらずに後悔するより、やって後悔してほしい」と伝えたいです。

Q8. 海外を目指す選手に必要なことは?
合田:一番大切なのは語学力です。野球の技術だけでは海外で生きていけません。環境や文化を知らずに渡航すると必ず苦労します。将来プロを目指すなら、最低でも英語の成績は“4”を取ってほしいと思います。
Q9. 印象に残っているエピソードを教えてください。
合田:オイシックス新潟アルビレックスに所属したダニエル・パディシャーク投手の日本での運転免許取得を手伝ったことがあります。
また、チェコの選手の家族から「息子をよろしくお願いします」と声をかけてもらえたときは、とても嬉しかったですね。
Q10. 今後取り組みたいテーマは?
合田:野球を通じた「スポーツツーリズム」です。試合のためだけに来日するのではなく、観光とセットで野球を楽しむ。プロや限られた選手だけではなく、誰にでも国際試合の門戸が開かれるべきだと思います。

Q11. BBPARKに期待することは?
合田:周囲の意見に流されず、自分の考えを確かめる場として「セカンドオピニオン」を活用してほしいです。ネットやテレビの情報がすべて正しいわけではありません。専門家の視点に触れることが、選手や保護者を救うはずです。
Q12. 最後に、読者へのメッセージをお願いします。
合田:どの分野でも成功する人は「ほう・れん・そう(報告・連絡・相談)」ができる人です。これは野球に限らず、社会で生きていくうえで必ず役立つものだと思います。
■ 編集後記
野球界では「通訳」として知られる合田哲郎さんですが、その活動の背景には「国際交流を通じて人を支える」という強い信念があります。
「やらずに後悔より、やって後悔」という言葉や、スポーツツーリズムの提案には、野球を競技の枠にとどめず、人生や社会と結びつける視点がありました。
海外からのまなざしを持つ彼の存在は、日本野球に新しい風を吹き込んでいます。
